APSカップ「親子」参戦記
ケン野沢
スタッフから選手へ
「APSカップ」は、現在、日本最大のエアソフトガン射撃大会として知られている。10年を越える歴史があり、競技内容はもちろん、参加する選手たちのレベルは高い。
知っている人もいると思うが、私は、「APSカップ」立ち上げに際し、競技内容を考えて欲しい‥‥という依頼を協会から受けた。そこで、一週間の時間をかけ、4つの競技を考えて提出したのだ。もちろん、ターゲットの大きさ、形、そしてターゲットまでの距離や試合での制限時間といったルールも決めていった。
私が考えた原案を、最大限まで発展させたスタッフの努力が大きいのだが、「APSカップ」は間違いなく、歴史に残る「名競技」だという自信がある。
さてさて、私は競技を考えた立場でもあり、協会から、競技委員長として手伝って欲しいと依頼を受けた。もちろん、喜んで引き受けた。エアソフトガンの楽しさ、シューティングの奥深さを伝えるお手伝いができる。それは昔からの夢だった。
ただ、3年が過ぎ、5年が経つころになると、悪い虫がモゾモゾと動き出した。
集中し、熱中し、小さな的を必死にねらい撃つシューターたちを見ているうちに、どうしても、参加する側に回りたくなってしまったのだ。こうなると止められない(笑)。
私のワガママから、競技運営側ではなく、参加する一人の選手として「APSカップ」とお付き合いさせてもらうことにした。2005年のことだった。
やっぱり、撃つ方がたのしいよ。
APSカップの魅力
「APSカップ」は、エアソフトガンという玩具を使っての遊びの一つには違いない。が、その性能を徹底的に高めることで、スポーツ性を持たせる事に成功している。
「遊び」と「スポーツ」とはどう違うのか?
改めてそう聞かれると答えに窮する。そこで目を海外へ向けると、英語では、「遊び」も「スポーツ」も「PLAY」となるため、同じというか、スポーツは遊びの一種と考えられている。日本とは少し違う気がする。
辞書を引いて求められる答えはともかく、私は、「スポーツとは、練習や作戦の量と質によって強化できる、自己を高められる遊び」だと考えている。
どうです。APSカップは立派なスポーツでしょ。
そして、ここが重要なポイントなのだけど、練習や作戦で強化できるってことは自身を成長させられるわけで、そこには喜びが発生する。
まあ、小難しい講釈はどうでもいい。
小さな的を狙いトリガーを引く。それをヒットできた瞬間には快感が走る。
それこそが、APSカップの、射撃の魅力だ。
サイトをチェックするケン親子。宿命のライバル?
エアソフトガンの可能性
そろそろAPSカップも始まる。自分の出番も近い。でも、その前に、エアソフトガンの可能性についても書いておきたい。
エアソフトガンは、この20年間に大きく変化した。発展した。もう行き着くところまで行ってしまったと言い切るファンもいる。確かに、性能や機能のみを見ていくと限界点に近いと感じる。法的な制限もいろいろとあり、手を加えられる場所、加えられない場所も出てくるため、もう改良できる部分は少ないという発想だ。
しかし、視点を変えれば、まだまだエアソフトガンには伸ばせる分野があるのも事実だ。
集弾性を特化させたAPSシリーズは一つの例であって、コンパクトさを追究したもの、簡単にアクセサリーの組み込みができるもの(ミニ四駆のような)などなど、そんなモデルがあれば従来とは別のファンを掘り起こせるに違いない。
APSシリーズのハンドガンやライフルを観ていると、明確なコンセプトを持っているが故の魅力を感じる。ポリシーといってもいい。
エアソフトガンの可能性は、まだまだ高められるはずだ。
いざ本番!
あれこれと考えている内に出番がきた。
APSカップは3種の競技から成り立っているが、私が最初に撃つのは「プレイト」だった。
プレイト競技
プレイトという競技では、卵を立てたような形の的が横一列に5個並んでいる。そして、さらに、その5個並びが上下に3段重ねという、豪華な(?)仕様だ。
つまり、合計15個の的が並んでおり、それを撃ち倒す内容なのだ。
ルールを簡単に説明すると、チェンバーに弾を入れていつでも発射できる状態にした後、銃口を前方下45°に向けて合図を待つ。
射撃スタートの合図音が聞こえたら、すかさず銃口を振り上げ、6m先の的に向けて1発のみ発射する。この時の制限時間は3秒だ。
制限時間内であれば、1秒で撃っても2秒で倒してもOKだが、3秒を過ぎるとターゲット(プレイト)はロックされ、仮にBB弾が命中しても倒れない。
この競技は「3秒間」という時間設定が絶妙で、そこにシューターは苦しめられる。
私は、スタートのプレイトで外しまくり、15枚中7しか倒せなかった。周りからうまいと言われるシューターは最低でも12枚は倒すので、7枚というのは初心者に近い(泣)。
6m先の的。卵を立てたような形の的は撃ちやすい形をしているものの、わずかなミスでBB弾は脇をすり抜ける。また、3秒間という時間設定がシューターを悩ませ、トリガーコントロールを狂わせる。次戦までには12枚以上を倒す実力をつけたい。
一緒に参加した息子のケンイチは9枚を倒し、最初から接戦となった。
低レベルではあるが‥‥。
続いて撃ったのはシルエットだった。
シルエット競技
「シルエット」というのは、6、7、8、9、10mの各距離に3cm角の的が置かれ、それを撃ち倒すという競技だ。持ち弾数は5発、持ち時間は2分。他の2競技とは異なり両手での射撃が許され、狙った的を撃ち損じた場合、5発内であれば、同じ的に対しての射撃が許されている。
もっとも遠い10mが6点で、最短の6mは2点。そのため、近くの的から手堅く倒すか、遠くの的を狙って大量得点を狙うのか、作戦が分かれる。
腕に自信がある。もしくは上位を狙う選手は10mから撃ちはじめるが、初心者や自信のないものは6mからというのが一般的だ。
私は、迷わずに6mから撃ちはじめた。9mや10mを倒せる自信は無い。
両手射撃は片手での射撃とは違い、銃の揺れも少なく、6mと7mは少しの練習で誰でもヒットできるようになる。難しくなるのは8mからだ。
8m。的までの距離が遠くなるため、少しのミスも許されない。さらに、銃そのものの性能も重要で、競技専用銃でないとヒットは難しい。
ここではスタンディングで2個、プローンで3個の合計5個(14点)となった。40点満点での14点なので、半分にも満たない。このシルエットで上位に食い込む選手は、28点以上を出している。私の得点の2倍。なんとも遠い目標だ。
ケンイチは6個を倒して合計18点。私はさらにポイント差を開けられ、オヤジとしての権威はなくなった(泣)。
が、そんなところに、射撃の素晴らしさがある。
私と息子との年齢差は32歳ある。射撃歴は、モデルガン、実銃、エアソフトガンで考えると、私が35年で息子は1年だ。その差は34年。さらに、銃や射撃に関する知識となると、比較のしようもない。
だというのに、勝負では息子がオヤジを凌駕する。射撃とは、体力や知識はあまり関係ない。中学生くらいになれば、日本一になれる可能性も充分にある。さらに性別も関係ないため、老若男女、誰もが同じ土俵で戦える数少ないスポーツの一つなのだ。
最後の競技はブルズアイだった。
ブルズアイ競技。ケン野沢、真剣(弾)勝負!
これは、5m先の直径22mmの的を狙って撃つ。2分間に5発を撃ち切ればよく、そのペースは各シューターの好みで進めてよい。
2分間に5発と聞くと、経験の無い人にはゆっくりに感じられるはずだが、1発1発を丁寧に撃つとき、決して、時間が余って困る‥‥ということはない。
私は、自分のペースで5発を撃った。1分40秒ほどで撃ちおえた。そこでターゲットが交換され、再び同じ条件での射撃を繰り返す。全弾を10点に撃ち込めれば100点だ。
私は、61点で撃ち終えた。トップクラスの選手は90点を越えてくる。
90点!!
現在の私の実力では不可能な高得点だ。しかし、練習を積み重ねることで、そのレベルまでは誰でもたどり着けることも事実だ。だからこそ射撃はおもしろい。飽きない。
ケンイチはというと、1発が発射されずに9発しか撃てなかったこともあり、52点に留まった。が、それでも、合計得点で私を3点上回り、帰りには賞品替わりの漫画3冊を手に入れたのだった。
私もケンイチもAPSカップに参戦したことで楽しんだが、結果には少しも満足していない。このまま終わらせる気は微塵も無い。
とくに、オヤジを負かしたことで気をよくしたケンイチは、来年はトップクラス入りを狙い、現在も練習を続けている。勉強はしなくてもトリガーは引いている。
戦いと遊びは、来年へと続く‥‥。